最近購入して良かった本・文学編

3日連続更新の最後、児童文学編です。
ネタバレ注意!
(完全に結末がわかるような書き方はしていませんが)


ゆきひらの話 (安房直子名作絵童話)

ゆきひらの話 (安房直子名作絵童話)


安房直子さんの心あたたまるお話に、
田中清代さんのやさしい絵。
絵本にしても良いのですが、サイズが少し小さく
お話も長めなので913に分類しました。
低学年向けですが、何年生でも楽しめるかな?


月の少年

月の少年


これは散々迷った末に、結局入れました。
沢木耕太郎さん初の児童文学作品。
海の事故で両親を亡くし、周囲の憐憫の情に
耐え切れず、引きこもってしまう主人公。
そんな時に湖のそばで出会った不思議な少年
この少年は、主人公が両親と死別したという
自分自身を映す鏡となり、
自分の境遇を見つめ直すきっかけとなっている。
そして、一緒に暮らすおじいさんは、
主人公を両親の死という悲しみから
「ゆっくりと立ち直る時間」を与えてくる。
主人公に必要なのは、いたわりや救いではなく、
この自分のペースで、そして自分の力で、
ゆっくりと悲しみや孤独から抜け出すための
「時間」なのだなと気づかせてくれます。
と、よくよく考えて感じたので入れてみました。
似たテーマの作品として、
まだ途中までしか読んでいないのですが、


よるの美容院

よるの美容院


も似た形の物語。
目の前で仲の良い同級生の交通事故を目撃し、
ショックで声が出なくなってしまった女の子。
こちらは「月の少年」よりももっと辛辣な、
女の子に対して向けられる、
声が出なくなったことへの押し付けがましい哀れみや、
求めてもいないのに手前勝手に差し伸べられる救いの手、
母親すらも女の子に非常に厳しい重圧を押し付けます。
そしてこの作品でも助けとなるのはおばあちゃんなのですが、
こちらにはもうひとりキーパーソンが出てきます。
それにしても、どちらの物語も、
どうしようもないような悲しみや苦しみのどん底に至った人に
対して「もっとゆっくり待ってあげようよ」という
世間への問いかけのようなものが感じられる作品でした。


さらに似た作品として


グッバイ マイ フレンド

グッバイ マイ フレンド


福田隆浩さんの最新作。
突然海の事故で亡くなった男の子の、
クラスメートたちの視点から描いたオムニバス。
クラスメートたちはそれぞれ彼の死が
何らかの形で肩にのしかかっています。
それを癒すのは、この作品では「思い出」。
クラスメートたちはふとしたきっかけで、
男の子が残した物や思い出を通して、
男の子と架空の「再会」を果たし、立ち直っていきます。
こうやって「再会」を重ねていくごとに、
この亡くなった男の子がどんな男の子だったのかが
徐々に明らかになっていく過程で、
読み手はクラスメートたちと同じように
「アイツはそういうやつだったよなぁ」と
一緒に思い出すような体験をしていって、
そして最後の最後に…良い結末が待っています。
福田隆浩さんは書く作品みんな面白いなぁ。


シーラカンスとぼくらの冒険 (スプラッシュ・ストーリーズ)

シーラカンスとぼくらの冒険 (スプラッシュ・ストーリーズ)


これは最初あまり食指が動かなかった作品。
表紙がいまいちなのと、
最初に読んだ時は数ページでなんだか
あまり文章に馴染めなかった印象があった。
しかし機会を改めて良んでみたら、
その第一印象とは全く異なる内容だった。
印象だけで毛嫌いしたらダメですね…。
受験勉強で塾に通う主人公が、
地下鉄の駅で電車をベンチに座って待っていたら、
隣に座ってきたのがシーラカンス
これは主人公の幻想でもなんでもなく、
現実に「陸シーラカンス」という種として
地下鉄を生息域とし絶滅の恐れがある、
というトンデモ設定(本当はさらにとんでもない設定が…)。
しかしSFチックな出だしですが、
テーマはタイトルにもあるように「冒険」。
けっこう熱い物語でした。
ただ、今になって冷静に振り返ってみると、
冒険は冒険でも、昔の冒険小説の冒険とは明らかに違う。
「現代の子どもたちの冒険」という悲しい印象もあります。


魔女の物語 (〈魔使いシリーズ〉外伝) (創元ブックランド)

魔女の物語 (〈魔使いシリーズ〉外伝) (創元ブックランド)


ようやっと新作が出た!魔使いシリーズの外伝。
本編で出てくる魔女たちの過去が明かされます。
本編の魔使いたちの苦しくも崇高な使命に対し、
魔女たちの闇の暮らしや思想が描かれていて、
この外伝のポジションが本編と対照的で面白い。
それでいて「あぁ、本編のあれはこういうことだったのか」
という謎明かし的要素もあり、
まさにこれぞ外伝、という1冊でした。
あ、ちなに本編ももちろんオススメです。
ただ、今年はあんまり子どもたち読んでくれないけど…
(どうもこれも「バーティミアス」的ポジションじゃ
 なかろうかと思い始めている)


また、ファンタジーというよりSF的?な


空に浮かんだ世界 (トビー・ロルネス (1))

空に浮かんだ世界 (トビー・ロルネス (1))

逃亡者 (トビー・ロルネス (2))

逃亡者 (トビー・ロルネス (2))

エリーシャの瞳 (トビー・ロルネス (3))

エリーシャの瞳 (トビー・ロルネス (3))

最後の戦い (トビー・ロルネス (4))

最後の戦い (トビー・ロルネス (4))


科学者と優しいお母さんの間に生まれた主人公、
トビー・ロルネス、身長1.5mm。
メートルではありません、ミリです。
この爪の先ほどの小人という設定と、
その小人たちが暮らしているのが木だという設定、
この2つの設定の描き方がまずすごい。
「木で1.5mmの小人が暮らしていたら、
 きっとこういう生活に違いない」という
描写が多々あるのですが、よくこんなこと思いつくというか、
想像がつくよなぁ、という面白い描き方。
例えば蚊に刺されたらひとたまりもないとか、
牛じゃなくてゾウムシを飼っているとか。
その設定だけでも面白いのですが、
しかし真に面白いのは物語の方。
主人公は冒頭からいきなりかつて一緒に暮らしていた
木の人々に追われています。
何故追われているのか?それが徐々に明らかになってくにつれ、
この物語は我々人間社会の縮図であることがわかります。
その縮図の中であがくトビーやその家族、友人、
恋人たちの絆、勇気、愛。
伏線も多々あり、ユーモアもあり、大変楽しめました。


シリーズ物としては他に


動物と話せる少女リリアーネ〈7〉さすらいのオオカミ森に帰る!

動物と話せる少女リリアーネ〈7〉さすらいのオオカミ森に帰る!

動物と話せる少女リリアーネスペシャル〈1〉友だちがいっしょなら!

動物と話せる少女リリアーネスペシャル〈1〉友だちがいっしょなら!

ぼくら! 花中探偵クラブ 5

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保健室の日曜日 (わくわくライブラリー)

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ケイン・クロニクル 2 ファラオの血統

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わたしはみんなに好かれてる (新・童話の海)

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てんやわんや名探偵 (ミルキー杉山 あなたも名探偵)

てんやわんや名探偵 (ミルキー杉山 あなたも名探偵)

川の光 外伝

川の光 外伝


などを購入中です(超有名どころは抜いています)。
川の光」外伝出てたんだ…というか今検索したらDVDもある…アニメ化したの?


さて、最後に現時点で今年度最高の作品を。


八月の光

八月の光


現時点、というより多分今年度最高の作品となるでしょう。
これは読んだ直後の自分のつぶやきを引用して紹介します。


朽木祥八月の光」。電車で泣きながら読んだ。あの8月6日に、残された人々が何を見、何を感じ、どう悲しみ、どう苦しんだのか。忘れ去られてはいけない物語。

読み終わってしばらく経つのに、まだ「八月の光」の物語から抜け出せないでいる。この「抜け出せない」というのがまさに朽木さんの思いに叶うのだろう。8月6日のことを忘れないで欲しい、記憶して欲しい、だからこそ書いたのだ、という作者の思いが込められた物語だった。


というわけで、以上で終わりです。
さて、3日も連続で更新したし、
またしばらく冬眠します(ぉぃ